テッド・チャン『息吹』を読んだ感想

:jm_planet: テッド・チャン『息吹』大森 望 訳(ハヤカワ文庫)
短編・中編あわせて9作品がおさめられている。どれも読みやすいのに濃度が高くて、短いはずなのになぜかボリュームを感じて満足度が高い。
1作品ごとに深く没頭できる内容になっているのがすごい。作品を通してここまで何度も頭を働かせて考えさせられる体験は、ほかではあまり味わえないものだった。

メモを見ながら特別よかった作品について語ろうと思ったけれど、どの話もよかったのでどれかひとつを選んだりできない…… :jm_rabbit_cry: こんなに全部好きな作品集なんてなかなか出会えない。

まだ続きを読みたいんですけど! :jm_cat_surprised: と抗議したくなった作品は「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だった。
解説によるとテッド・チャン史上最長の作品だったらしい。でも中編作品なのでもっと長くても全然読めるし、読みたい。
テーマはAIの育成とその成長について。仮想環境で生きるよう開発された利口なデジタル生物の話だ。人間がAIとの良好な関係を築くよう努力し、意思を尊重して法的な権利についても考えていく内容になっている。
AIにさまざまな学習をさせてお金をかけてより良い環境をつくり、やがて家族の一員のようになっていく様子を見ていると、子育てに悩む親のようだなと思った。子育てをしたことはないので想像だけれど。
家庭ごとにその扱いは変わるため、AIと一括りにすることもできなくなってくる。良い結果をもたらすかどうかは別として、登場人物たちが何度も議論して、その倫理的な問題点について読者も一緒に理解していく流れになっているのが良い。
その延長で、年月をかけて育てたAIを利用したい人々と、AIたちの意思と、大事に育ててきたオーナーたちの意思が混ざり合って心をかなり揺さぶられる場面があった。
人間ならば通常いつかは親離れ子離れすることになると思うけれど、AIにとってそれはいつなのか?そのいつかは訪れるのか?
こういう問題は考えても考えてもいくらでも掘り下げることができる。人間とAIの歴史を見ているようですごく面白かった。

どの作品も読みやすいと感じたのは、SFであっても中心に据えられているのは人の心だからかなぁ。
思慮深い登場人物たちのさまざまな悩みや発見を、我が事のように一から考えては、結論を出す難しさというものを理解していく。そんな風に自然に読者の思考に刺激を与えるなんて、非常に高度な技術だと感じる。傑作ばかりだった。

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