#リアクションシューティングガール $[font.serif どうすればいい? 憧れの人が.ioを去ろうとしている]
ツキレイ──アカウント名を「月が綺麗と言え」と名乗っているひと──が人前で涙を流すのを、雑賀朔は初めて目の当たりにしたのだった。
週末の夜、Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りに面したカフェテラスは、屋外のテラス席も店内のボックス席も、沢山のミスキストで騒がしい。雑賀朔が座るボックス席にはツキレイの他にも凡百ちゃん──持ち歩くハンドミキサーとボウルでMFMアートを「料理する」ひと──も座っている。
人目も憚らずツキレイが泣くのに訳があるのは明らかだった。雑賀朔はたまらずに訊く。
「ツキレイちゃん大丈夫?」
「……ゴールデンどんぐり先生が、SNSも漫画辞めちゃうって」
ツキレイがしゃくりあげながら流す涙を、向かいに座る凡百が手を伸ばしてハンカチでそっと拭いながら、訊く。
「お笑い芸人さんのファンアート描いてるひとだっけ?」
ツキレイは息を飲み込むようにすすり上げて、答える。
「前から引退したいみたいなこと書き込んでたけど、ひょっとしたらもう引き留められないかもしれなくって」
「かなり難しいの?」
凡百の問いに、ツキレイは固まってしまう。その姿に雑賀朔は、Misskey.ioで、Fediverseで、 様々なSNSで何度も見てきた悲しみが、ツキレイにもやってきたのだと知った。
「──なら、最後にもう一回、心を込めて引き留めてみたら? どっちに転んでも良いと思って」
真っ直ぐ見据えて雑賀朔が言うと、ツキレイは唇を噛みながら返す。
「どうやって? もしかしたら全部の言葉が嫌になってるかもしれないのに?」
ツキレイはテーブルのペーパーナプキンで目元のメイクを拭きながら俯いてしまう。凡百も眉根を寄せて黙ってしまう。雑賀朔は思わず腕組みし、しばらく窓の外のローカルタイムラインの表通りを眺めながら、頭を巡らせる。
ひらめきの精度は必要な時のために重ねた無駄の数による──雑賀朔はスマホで画像検索をしたあと、凡百に画面を見せながら訊いた。
「ボンちゃん、『ボウガン』ってMFMアートで作れる?」
雑賀朔が訊くと、凡百はスマホの画面をスワイプしながら数々のボウガンを閲覧したあと、顔を上げて言った。
「うん、できると思う」
雑賀朔はツキレイに向き直って言う。
「ツキレイちゃん、心を込めて精いっぱいのリプを『ボウガンの矢の形』にできる?」
雑賀朔に見せられたスマホの画面を、ツキレイは眉尻の下がった顔でしばらく見つめた後、こくん、とうなずいた。
しっかりと目線を合わせてうなずきあったあと、三人はカフェテラスの屋外に出た。凡百が、肩から紐で下げていた持ち手のついたボウルを地面に置くと、両手を揉み始める。すると手のひらから沢山の図形の絵文字や、括弧や記号などが「具現化」して、ボウルの中に落ちていく。そのボウルに、凡百がもう片方の肩にかけていたハンドミキサーを突っ込んで、轟音と共にボウルの中身を撹拌しはじめた。
ボウルの中身がメレンゲのように盛り上がったあと、MFMアートの「蛹」は徐々に収縮していき、三人の目の前で美しく仕上がった「リプライの矢のためのボウガン」になった。それを目の前にして、ツキレイは深く頷き、常に持ち歩いているハンディ拡声器を眼前に掲げ、深呼吸、そして、声を張り上げる。
「「「ゴールデンどんぐり先生えええぇぇぇぇぇぇ!!!!!! あなたのファンはあなたの作品も、お笑い評も、人間性も、大好きです! アンチに否定される筋合いなんてなんにもないです! あなたの描いた真空ジェシカの漫画、大好きでええええぇぇぇぇぇす!!!!!!」」」
拡声器のコーンの広がった先から、ツキレイが叫んだ言葉がブロックのように具現化する。その言葉のブロックはツキレイの眼前の空中で捻れるように高速回転すると、
徐々に凝縮していき、一本の「リプライの矢」になる。
凡百がボウガンを、ツキレイがリプライの矢を、雑賀朔に渡す。雑賀朔はボウガンに矢をつがえて、空に向かって狙いをつける。照準の真ん中には、Misskey.ioのサーバーの街に広がる濃い碧色の夜空で輝く、エメラルドの月。
雑賀朔は迷いなく、ボウガンの引き金を引いた。弓と弦が震えて、空を切って放たれたリプライの矢は、エメラルドの月に向かって飛んでいく。
リプライの言葉を具現化して相手に放つことができる「リプライ・シャウト・ガール」ツキレイと、MFMアートでスイーツから兵器まで具現化することができる「エモジ・クッキング・ガール」凡百と、カスタム絵文字の弾丸を放つ銃でリアクションの狙撃ができる「リアクション・シューティング・ガール」雑賀朔。この三人の力が合わさって放たれた「言の葉の矢」が放物線を描き、Misskey.ioのサーバーの街に煌々と照るエメラルドの月の光を掬って、地上の「ゴールデンどんぐり」へと真っ直ぐに飛んでいくのだった。
「あそこだ」
.ioのサーバーの街に並ぶビル群の向こうに、エメラルドの月の光を引いた矢の軌道が輝く。光を追って雑賀朔たちが落下地点へと向かうと、金髪のマッシュルームカットの女性が、Misskeyお笑い部のチャンネルタイムラインの路地裏で、グリーンの光を胸に抱きながら膝をついていた。
「先生!」
三人のなかからツキレイが駆け出して声をかけると、マッシュの女性は驚いた表情でツキレイを見上げる。
「……月が綺麗と言え、さん?」
「ゴールデンどんぐり先生、.ioでも、にじみすでも、Fedibirdでもいいんで、もう漫画書かなくてもいいんで、お願いです、みんなのそばに居てくださいませんか」
目元を潤ませながら言うツキレイに、ゴールデンどんぐりはいまにも泣き出しそうな微笑を湛える。
「ありがとう、そうなんだね、ごめんなさい。そんなに月が綺麗と言えさんやフォロワーさんに心配かけてたなんて知らずに、メンヘラ爆発させてしまって」
ゆっくりと立ち上がったゴールデンどんぐりを、ツキレイがしっかりと抱きしめて、二人が固く抱擁するのを、雑賀朔と凡百は安堵した笑顔で見守っていた。
Misskey.ioのサーバーの街には今日も寂しい人がいて、それを救うリアクションやリプライや、ファンアートやMFMアートがやり取りされているだろう。それはMisskeyサーバーという「街」で心の傷を庇い合う電子の抱擁、あなたが手を伸ばせば、きっと差し伸べられる愛だから。
#リアクションシューティングガール
#フェディバーシティ・コネクション
#MisskeyWorld